最高裁判所第三小法廷 昭和29年(あ)1910号 決定 1954年12月24日
主文
本件上告を棄却する。
理由
被告本人ならびに弁護人柳瀬宏、同環長三郎の各上告趣意は末尾添付、別紙記載のとおりである。
被告本人並に弁護人環長三郎の上告趣意について。
違憲を云々し、被告人の司法警察職員、検察官に対する供述調書の記載は、強要された自白であると主張するが原審判決は「被告人の所論供述調書の記載が任意性を欠くとの非難は肯認し難い」と証拠に基いて判断しているのであり、記録によっても右自白が強制によるとの事実は認められないから所論違憲論は前提を欠き採用の限りでない。
其の他の論旨は事実誤認、量刑不当の主張であって刑訴四〇五条に規定する事由に当らない。
弁護人柳瀬宏の上告趣意第一点について。
所論は判例違反を主張し本件は刑訴三三五条二項の「犯罪の成立を妨げる理由又は刑の加重減免の理由となる事実が主張されたとき」にあたるという。
しかし、「犯罪の成立を妨げる理由」とは「犯罪構成要件以外の事由であって法律上犯罪の成立を阻却する事由」をいうのであり、そして、その事由とは、行為の違法性又は行為者の主観的責任を阻却する事由をいうのであるが、犯罪事実の否認等はこれに含まれない。
だから、本件において、上告人のいう遺失物と誤認した錯誤があったという主張は犯意の否認に過ぎないものであり、刑訴三三五条二項にあたらない。この点に関する原判示は相当であり、所論引用の判例はいずれも本件に適切でない。論旨は理由がない。
同第二点について。
量刑不当の主張であって刑訴四〇五条に規定する事由に当らない。
同第三点について。
原審の主張判断を経ない事項であって、適法な上告理由とならない。
同弁護人の補充申立上告趣意。
期間後の提出だから判断しない。
また本件につき刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
よって刑訴四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)